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谷 久典

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心筋梗塞と睡眠

2024/11/16

P. Huynhらは「Myocardial infarction augments sleep to limit cardiac inflammation and damage (心筋梗塞は睡眠を増強して心臓の炎症と損傷を制限する)」の論文をNatureに掲載しました(Nature, 635(8037), 168-177 (2024))。Huynhらは心筋梗塞後に単球が脳へと動員され睡眠を増強し、これにより心臓への交感神経の出力を抑制し、炎症を抑え治癒を促すことをマウス及びヒトにより認められたことを報告しています。

脳に動員された単球は視床後外側核にて再プログラム化され腫瘍壊死因子(TNF)を産生します。このTNFがグルタミン酸作動性ニューロンと結合し、徐波睡眠圧と徐波睡眠量を増強させる事を明らかにしました。しかし、心筋梗塞後に睡眠を妨げると、心臓の交感神経入力が増加し、この結果単球の流入が増加し、二次的な心血管事象が起こりやすくなり、心機能の回復を低下させます。

即ち、彼らは心損傷後の睡眠は心臓への交感神経の入力を抑制し、炎症と損傷が制限されるデーターを示しています。日々の健康のために睡眠が如何に重要である事が判る論文です。

睡眠とは単に心身が休息している状態ではなく、体すべてに影響を与える重要な生活習慣であります。脳をはじめ、心臓や肺、胃腸、骨や筋肉、免疫、内分泌、泌尿器、皮膚などが睡眠中にどの様な状態になっているのか、睡眠不足によってどのようなダメージを受けるのかについて、世界中で研究されています。「眠っている間に体の中で何が起こっているのか」(西多昌規著、草思社)では様々な研究が一冊の本に纏められています。興味ある方は一読をお勧めいたします。

我々は良質な睡眠をサポートするサプリメント「睡宝(1包5g入り、30包1箱、税込み¥14,040-)」を提供しています。良質な睡眠により心臓以外にも脳機能の衰えを遅らせる事もわかってきました。「睡宝」で心身ともに健やかな日々を送りましょう。

 

*「睡宝」に関するお問い合わせは弊社ホームページのお問い合せよりアクセスしてください。

Disbiosisの改善に向けて

2024/09/26

前回で善玉菌特にBifidobacterium属、乳酸菌(Lactic acid bacteria)、及びAkkermansia菌を特異的に増やし、腸内の占有率を上げることで、腸内フローラ構成菌の乱れ(dysbiosis)を改善し健康に資する物質を見出した事を記しました。この物質はバターミルク中に含まれている乳脂肪球被膜由来ヘパラン硫酸であります。

牛乳中の脂肪は乳脂肪球皮膜(MFGM)に覆われて牛乳中に存在しています。このMFGMは乳腺上皮細胞の細胞膜由来の膜である事が泌乳の生理学から判明しています。MFGMは一般的に糖タンパク質(ミルクムチン)、トリグリセライドやリン脂質(スフィンゴリン脂質)、グリセロリン脂質(ホスファチジルコリン)などが含有されています。また、近年の研究によりヘパラン硫酸のようなムコ多糖が含まれている事もわかってきました。乳腺上皮細胞由来と言うことを考えると今後ますますマイナー成分が検出されると考えられます。

さて、バターミルクは乳から分離したクリーム(脂肪分)からバターを造る時に残った液体の部分で必然的に様々な有用成分が含まれています。我々はバターミルクにヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、及びコンドロイチン硫酸Aなどのグルコサミノグリカン(GAG)が含まれることを明らかにしました。そこで、バターミルクよりタンパク質を除去した粗抽出粉末を動物に摂取させることで腸内フローラの改善効果を試みました。本抽出物を摂取することで乳酸菌やビフィズス菌の占有率が上昇し、大腸菌群のそれは減少しました。即ちdysbiosisの改善に効果が認められました。今回用いた動物は担ガン状態のマウスでしたが、同時に自然免疫の賦活化も確認されました。このバターミルク摂取によるdysbiosis 改善効果は新規性が認められ特許取得*となりました。また、弊社はこれらの結果からdysbiosis改善効果を目的とした商品「ABL」を開発致しました。

 

*:特許第7554462号(発明の名称:腸内フローラ改善剤)

健康な腸内フローラとは?

2024/09/24

ヒトや動物の腸内には1,000種以上、100兆個以上の腸内細菌が存在していると言われており、ヒトの全細胞数を上回る量であります。腸内細菌は腸の中で複雑な微生物生態系を形成しており、これを腸内細菌叢(または腸内フローラ)と呼んでいます。

ヒトの腸内フローラはヒトに対して善玉菌、悪玉菌、及び日和見菌に分類されています。腸内細菌の全体の2割を占めている善玉菌と呼ばれるものにはビフィズス菌に代表されるビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)や、乳酸桿菌と呼ばれるラクトバシラス属(Lactobacillus)があげられます。また、腸内細菌の1割を占めている悪玉菌にはウエルシュ菌に代表されるクロストリジウム属(Clostridium)や病原性大腸菌等があげられます。残りの7割の日和見菌には非病原性大腸菌やバクテロイデス属(Bacteroides)などがあげられますがその大半は未知なるものです。

善玉菌は宿主であるヒトに対して有益な効果を示す一方、悪玉菌は様々な疾病にも関与していることが明らかとなってきました。現代人の食生活はとかく腸内フローラ構成菌の乱れ(dysbiosis)に向かいがちです。Dysbiosisを改善し健康な腸内フローラを維持するためには如何にして善玉菌を増やしていくかが重要です。

近年特に注目されている善玉菌の一つにアッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)に代表されるアッカーマンシア属(Akkermansia)があります。Akkermansia muciniphilaはヒトの腸内にも存在しており肥満や2型糖尿病に対抗するために利用できる可能性が見出され、やせ菌として注目されています。

我々は善玉菌であるBifidobacterium属、乳酸菌(Lactic acid bacteria)、及びAkkermansia菌を特異的に増やし、腸内の占有率を上げることで、dysbiosisを改善し健康な腸内フローラを作り出す物質を見出しました。

(つづく)

フコイダンの腸炎炎症抑制メカニズムが明らかに?!

2016/07/13

フコイダンが初めて論文に掲載されて約100年が経過している。その間、国内外に於いて数百報の論文が発表されており、その数は増え続けている。我々も様々なフコイダンの機能に付いて研究を行い、学会発表等を行ってきた。その中の一つに日本農芸化学会2005年度(平成17年度)大会に於いて発表した「トンガ王国産天然もずく由来フコイダンのデキストラン硫酸(DDS)惹起大腸炎に対する効果」がある(日本農芸化学会2005年度(平成17年度)大会講演要旨集、p107(2005))。

これはフコイダンを摂取する事で大腸疾患の改善作用が認めれらた事からデキストラン硫酸(DDS)誘導マウス腸炎モデル1を用いて検討したものである。モデルマウスにフコイダンを経口自由摂取させたところ大腸炎が有意に改善していた。また、脾臓中のリンパ球の割合を測定したところフコイダンを摂取する事でCD4+TCRβ+細胞2の割合が減少し、CD8+TCRβ+細胞3の割合が増加していた。これらの結果からフコイダンは粘膜中の免疫担当細胞の過剰免疫反応(炎症反応)を抑制する事でDDS惹起大腸炎を改善できる事を示したものであった。

このフコイダンの炎症抑制メカニズムに付いては不明であったが、2015年7月21日付けNature Communicationsのオンライン版にそのヒントが掲載された(Asano, K., ら; Intestinal CD169+ macrophages initiate mucosal inflammation by secretion CCL8 that recruits inflammatory monocytes: Nature Communications, 6: 7802, Doi: 10.1038 (2015))。

浅野らはその中で腸炎を引き起こす特定のマクロファージ亜集団4を発見し、その働きを抑制する事で腸炎の発症を制御できる事を明らかにしました。

即ち、消化管粘膜のCX3CR1注5発現マクロファージの中でも、CD169注6を同時に発現する特定のマクロファージ亜集団に着目し、このマクロファージ亜集団を消失させる事で腸炎症状が改善される事を見いだし、この亜集団が腸炎を引き起こしていることを明らかにしました。さらに、この亜集団が可溶性たんぱく質(サイトカイン7)の一種であるCCL8注8を産生する事を見出し、その作用を抑制する事でマウスの腸炎モデルの症状が改善された事から、CCL8が腸炎の原因物質の一つであることを明らかにしました。

フコイダンに付いては腸炎モデルマウスの炎症症状が改善した事を明らかにしたことからこれらのメカニズムのより症状が改善したと考えられます。

高次機能性フコイダンには炎症性マクロファージの活性を抑制する作用があり、浅野らの報告に見られたメカニズムによってフコイダンの腸炎改善作用が認められたと考えられます。

毎日のフコイダン摂取を心掛けましょう。

 

注1)デキストラン硫酸(DDS)誘導マウス腸炎モデル

デキストラン硫酸は分子量が5,000から50,000の高分子化合物で、実験動物の飲料水中に溶かして投与すると、直接上皮粘膜を傷害し、腸内細菌の粘膜への侵入を誘導すると考えられている。リンパ球を欠損したマウスでもDDS投与で腸炎が誘導される事から自然免疫に依存した腸管の炎症モデルとし広く利用されている。

 

注2)CD4+TCRβ+細胞

CD4は免疫系細胞の細胞表面に発現している細胞表面抗原の一つである。TCRはT cell receptorの略でT細胞受容体の事である。大多数のT細胞のTCRはα鎖とβ鎖で構成されている。T細胞の中でこの両者を発現している細胞をヘルパーT細胞と呼ばれており、主な役割とし他の免疫系細胞にシグナルを送る事である。

 

注3)CD8+TCRβ+細胞

CD8はT細胞免疫系細胞の細胞表面に発現している細胞表面抗原の一つである。TCRと共発現する免疫細胞は、以前はサプレッサーT細胞と言われていたが現在ではキラーT細胞や細胞傷害性T細胞といわれている。

 

注4)マクロファージ亜集団

マクロファージは大食細胞とも呼ばれ、細胞・異物・死んだ細胞等を取り込み分解処理する。消化管に常在するマクロファージのマーカー(細胞表面上に発現している分子)としてCX3CR1が知られている。

 

注5)CX3CR1

ケモカイン(注8参照)であるCX3CL1の受容体で、消化管の常在性マクロファージに発現している。

 

注6)CD169

CD169分子はシアル酸結合たんぱく質として同定され、脾臓・リンパ節などのマクロファージの一部に発現していることが知られている。

 

注7)サイトカイン

細胞から放出され、細胞同士の情報伝達物質となる可溶性たんぱく質で、細胞表面の受容体に結合し、様々な生理活性を発現する。

 

注8)CCL8

サイトカインのうち免疫細胞に対する遊走活性を持つものを特にケモカインと呼び区別している。CCL8はケモカインの一種である。